大西秀明教授(理学療法学科,神経生理Lab,運動機能医科学研究所所属)らの研究論文が2018年5月2日に『Brain Topography』に採択されました‼
大西先生は,様々な外的刺激(電気刺激や磁気刺激,触覚刺激など)を与えることにより,大脳皮質の興奮性を変調させ,運動制御や運動学習に応用するための研究をしています.理学療法にとって大切な末梢からの刺激がどのような影響を及ぼすのか?ということを明らかにした研究となっております.今回の研究論文の詳細と大西先生からのコメントは以下の通りです.
研究内容の概要:
一次体性感覚野の抑制機能を評価する指標の一つに,末梢神経を二連発刺激した際に記録される皮質反応(Paired pulse depression,PPD)があり,精神疾患や年齢と関連することがわかっています.しかし,PPDは健常若年者においてもバラツキが大きく,人によってはPPDがみられないことがあります.そもそも,PPDは安定した評価指標なのか?個人間の違いはどのような要因によって引き起こされるのか?という疑問を解決することを目的として研究を行いました.
大西先生からのコメント:
運動学習や知覚学習には皮質内の抑制回路の役割が重要です.人を対象として,その抑制回路の機能を客観的に評価するための指標がいくつか報告されていますが,いずれも安定したバイオマーカーとは言えません.そのため,一次体性感覚野内の抑制機能を反映すると言われているPPDに着目し,その個人間および個人内のバラツキ度合いを明らかにしました.
今後,一次体性感覚野の抑制機能を正確に反映するためのバイオマーカーの開発に取り組むとともに,運動学習や知覚学習過程における皮質内抑制回路の役割を明らかにしたいと思います.
研究のポイント
1)対象と方法:
健常成人19名を対象として,様々な刺激パターンの正中神経発刺激(図1)を行い,①誘発される体性感覚誘発磁界(SEF)のN20m, P35m,P60mの減弱率と,②刺激によって誘発されるアルファ波,ベータ波,ガンマ波の事象関連脱同期(Event related desynchronization, ERD)を算出し,③19名全員の脳由来神経成長因子(BDNF)の遺伝子タイプを同定しました.さらに,19名中12名を対象にして,1ヶ月以上の期間をあけて再度SEFを計測し,PPDおよびERDの再現性を確認しました.
その結果,3種類SEF成分(N20m,P35m,P60m)のうち,P35mとP60mにおいてはPPDが認められることと(図2),末梢神経刺激による事象関連脱同期の大きさとP60mのPPDの大きさに相関関係が認められ,β帯域のERDが大きい人ほどPPDが大きい(抑制機能が強い)ことが判明しました(図3).また,P35mのPPDの再現性は高く,N20mやP60mのPPDの再現性は低いことと,α,β,γ帯域のERDの再現性はいずれも高いことが判明しました(図4).さらに,BDNF遺伝子多型はPPDの大きさに影響しない可能性が高いこともわかりました.
原著論文情報
Onishi H, Otsuru N, Kojima S, Miyaguchi S, Saito K, Inukai Y, Yamashiro K, Sato D, Tamaki H, Shirozu H, Kameyama S. Variability and Reliability of Paired-Pulse Depression and Cortical Oscillation Induced by Median Nerve Stimulation. Brain Topogr. 2018. 8 (in press). doi: 10.1007/s10548-018-0648-5.