佐藤成さん(松村総合病院,理学療法学科15期生,博士後期課程1年,応用理学療法Lab,運動機能医科学研究所)と吉田麗玖さん(理学療法学科17期生,修士課程1年,応用理学療法Lab,運動機能医科学研究所),中村雅俊先生(理学療法学科,応用理学療法Lab,運動機能医科学研究所)の研究論文が,国際誌『BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation』に採択されました!!
今回の研究では,片腕だけのトレーニングを行った場合にトレーニングを行っていない側にトレーニング効果が波及する「クロスエデュケーション」効果と,トレーニングを修了した後に効果が持続するか否かである「ディトレーニング」効果に着目した研究です.特に,本研究では伸張性収縮(エキセントリック)を用いたトレーニングが有効であることを示した研究です.研究の詳しい内容は以下をご覧ください.
佐藤さんからのコメント:
スポーツやリハビリテーションの現場では,怪我や病気で片方の腕や脚が動かなくなって苦しんでいる患者様が多くいらっしゃいます.本研究成果がそのような患者様に対する治療の一助となれば幸いです.しかしながら,今回は健康な大学生を対象としているため,今後は実際の患者様でも同じ効果が得られるかを検証していく必要があると考えています.なお,本研究はエキセントリックトレーニング研究で世界的に有名な研究者である,野坂和則先生(Edith Cowan University)にもご指導いただきました!!
研究内容の概要:
筋力トレーニング(筋トレ)は健康増進,介護予防,スポーツパフォーマンス向上,リハビリテーションなどの様々な目的で行われます.筋トレの効果の一つとしてクロスエデュケーションと呼ばれるものがあります.これは,片方の腕や脚を筋トレするだけで,何もしていないはずの反対側の腕や脚の筋力がアップするといった面白い現象であり,医療やスポーツの現場での応用が期待されています.
今回はダンベルをゆっくり降ろす筋トレ(エキセントリックトレーニング,図1左)とダンベルを挙げる筋トレ(コンセントリックトレーニング,図1右)を週2回,5週間行い,筋力のクロスエデュケーション効果と持続効果を検討しました.
エキセントリックトレーニングではダンベルを下ろす動作で筋肉を鍛える一方,コンセントリックトレーニングではダンベルを持ち上げることで筋肉を鍛えます.
ふつうは,このダンベルを持ち上げることでトレーニングを行うと思われがちなんですが,その反対のエキセントリックトレーニングの方がトレーニング効果が大きいのでは?と考えて研究を行っております.
その結果,エキセンリックトレーニングとコンセントリックトレーニングは同様に筋トレしていない腕の筋力をアップさせることが明らかとなりました.驚くべきことに,エキセントリックトレーニングでは,筋トレしていない腕の筋力アップの程度は筋トレした腕のそれに匹敵するものでした(図2).しかしながら,筋トレを行った期間と同じ期間の筋トレ中止期間を設けると,コンセントリックトレーニングでは筋力は元通りに戻る結果となりましたが,エキセントリックトレーニングでは筋力が増加したまま維持しました.つまり,エキセントリックトレーニングを用いることで,トレーニングしている側の筋力増加は筋トレをやめても持続し,トレーニングしてない腕も筋力が増加することが分かりましたので,今後,リハビリテーション現場での応用が期待できます.
筋トレ前後における腕の筋力の変化
ET:エキセントリックトレーニング,CT:コンセントリックトレーニング,
PRE:筋トレ前,POST:筋トレ後
原著論文情報
Sato S, Yoshida R, Kiyono R, Yahata K, Yasaka K, Nosaka K, Nakamura M. Cross-education and detraining effects of eccentric vs. concentric resistance training of elbow flexors. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation. in press.