太田大樹助教(理学療法学科・Pain Lab・運動機能医科学研究所)、竹部陽菜(新津医療センター病院勤務、理学療法学科17期生)、水村和枝教授(名古屋大学名誉教授)、田口徹教授(理学療法学科・Pain Lab・運動機能医科学研究所)らの研究論文が2021年6月23日付で国際誌「The Journal of Physiological Sciences」に掲載されました。
今回の研究では、4週間のギプス固定により下肢に痛みを生じる「不活動性疼痛」モデルラットを用い、痛みの受容に関わる痛覚神経や脊髄ミクログリア細胞の動態変化を明らかにしました。研究成果は、ケガや生活習慣など、身体の不活動にともなう痛みの治療や予防に役立つと期待されます。
研究概要:
リハビリテーションで幅広く用いられる四肢のギプス固定は患部を保護し治癒を促進するために必要ですが、固定が長期化すると痛みを発症するケースがあります。しかし、その痛み(※不活動性疼痛という)の詳細なメカニズムは不明でした。
※ 不活動性疼痛:外傷後のギプス固定などによって長期間、身体の広範囲または一部を動かさないことで生じる痛み。
今回の研究では、不活動性疼痛の実験モデル(ラット)を用い、行動実験、電気生理学、免疫組織化学など、多角的な実験手法を用いて、その病態の末梢神経および脊髄での仕組みを調べました。その結果、モデル動物の末梢神経では顕著な変化がみられないものの、脊髄ではミクログリアとよばれる細胞の数や直径が増加し、活性化していることがわかりました(図、原著論文より改定)。この変化は身体の不活動にともなう痛みのメカニズムとして重要であると考えられます。
※ ミクログリア:中枢神経系におけるグリア細胞の一つ。活性化したミクログリアは、細胞の数や直径が増加し、痛みの感受性を亢進するなどの変化に関わる
先生方からのコメント:
ギプス固定など、長期にわたる身体の不活動により発生する痛みはリハビリテーションを行う上で弊害となります。しかしこれまでに、その「不活動性疼痛」の詳しいメカニズムは分かっていませんでした。
今回、「単一神経記録法」という我々がもっとも得意とする電気生理学実験手法を用い、末梢神経のなかの痛覚神経活動をシングルニューロンのレベルで調べたところ、不活動性疼痛モデルでは顕著な変化がみられませんでした。一方、痛みの受容に関わる脊髄後角におけるミクログリア細胞の形態を調べたところ、その数や直径が顕著に増加していることがわかりました。このことから、身体の不活動による痛みは脊髄のミクログリア細胞の活性化が重要な役割を果たすことが示されました。今後、脊髄を標的とした治療法および予防法の開発や新たな研究展開が期待されます。
※ 単一神経記録法:機能的に単一の神経から発生する電気信号(活動電位)を記録する実験手法。
原著論文情報
Hiroki Ota, Haruna Takebe, Kazue Mizumura, Toru Taguchi. “Responses of cutaneous C-fiber afferents and spinal microglia after hindlimb cast immobilization in rats", The Journal of Physiological Sciences 71: 19, 2021. doi.org/10.1186/s12576-021-00803-3