稲井卓真さん(国立研究開発法人産業技術総合研究所運動機能拡張研究チーム、大学院博士後期課程修了生)らの研究論文が国際誌『PeerJ』に掲載されました!
今回の研究では、歩幅とケイデンスが歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスに与える影響を解明しました。詳しい内容は以下をご覧ください。
研究の概要
変形性股関節症は日常生活動作能力や生活の質の低下を招く整形外科疾患です。近年、変形性股関節症の進行のリスクファクターとして股関節累積負荷(股関節内・外転モーメントインパルスと1日の平均歩数との積)が報告されました。そのため、この指標を低減させることで歩行中の股関節の負荷を軽減でき、変形性股関節症の進行を遅延できる可能性があります。この報告を踏まえ、様々な歩行様式と股関節内・外転モーメントインパルスの関係が報告されています(Inai et al., 2018, Gait & Posture; Inai et al., 2019, Gait & Posture; Inai et al., 2020, PeerJ)。多くの変形性股関節症患者は歩行速度が低下しますが、歩行速度を構成する歩幅とケイデンスが歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスに与える影響は不明です。この影響を明らかにすることで、理学療法士が変形性股関節症患者の歩行指導をする上で役立つ知見となる可能性があります。そこで、私たちは歩幅とケイデンスが歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスに与える影響を検討しました。その結果、以下に示す知見を得ることができました。
1. 歩幅の増加は、歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスを増加させる。
2. ケイデンスの低下は、歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスを増加させる。
稲井先生からのコメント:
本研究の知見は、歩行中の股関節の負担を軽減するための基礎的知見として役立つ可能性があると考えています。今回の研究では、股関節内・外転モーメントインパルスを股関節の負担の指標として研究を進めましたが、実際に股関節に生じる力(股関節間力)との関係性も解明したいと考えています。また、歩行中の下肢の関節モーメントインパルスといった指標を応用して、高齢者に頻発する『転倒』との関係も明らかにしていきたいと考えています。
本研究のポイント
① 歩行中の股関節内・外転モーメントインパルスは、歩幅とケイデンスのバランスにより決定する点を明らかにした点。
原著論文情報
Inai T, Takabayashi T, Edama M, Kubo M: Effect of step length and cadence on hip moment impulse in the frontal plane during the stance phase. PeerJ. 2021.