本学は、令和3年度スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」に選定され、女性アスリートの活躍に向けた支援や、ジュニア層を含む女性アスリートが健康でハイパフォーマンススポーツを継続できる環境を整備することを目的として研究を進めています。(選定テーマ:「月経周期におけるコンディション不良に対する運動器機能と中枢神経機能からアプローチする新たなトレーニング法・傷害予防法の開発」)
丸山紗永さん(2021年度大学院理学療法学分野卒業、スポーツ庁委託事業「女性アスリートの育成・支援プロジェクト」RA、現職:アルビレックス新潟レディースアカデミー メディカルトレーナー)と江玉睦明教授(理学療法学科、アスリートサポート研究センター)らの研究グループでは、重篤な膝関節のスポーツ傷害である前十字靭帯(ACL)損傷に着目し、月経周期との関係性について研究を行ってきました。
研究の概要:
ACL損傷は、代表的なスポーツ傷害の1つで、ACL損傷の発生率は男性と比較して女性で高いことや、月経周期により発生率が変化することが知られています。この性差の要因として、女性ホルモンの変動、すなわち月経周期が関与していると考えられています。また、大腿骨に対する脛骨の前方移動量(膝前方弛緩性)や、全身的な関節の柔らかさ(全身関節弛緩性)の増加がACL損傷の発生に繋がることが知られています。しかし、膝前方弛緩性や全身関節弛緩性が月経周期でどのような変化を示すのか、十分に明らかになっていませんでした。
そこで本研究では、正常月経と月経不順に着目して、アスリートと非アスリートを対象に、月経周期と膝関節弛緩性(膝前方弛緩性、膝過伸展)の関係について検証しました。
その結果、アスリートでは、正常月経群と月経不順群の群間差は認められませんでしたが、卵胞前期と比較して卵胞後期、排卵期、黄体期で膝関節の過伸展角度が有意に高値を示しました。したがって、アスリートでは、卵胞後期から黄体期にかけてACL損傷のリスクが高くなる可能性が考えられました。また、非アスリートでは、ACLのStiffness(Δ力/Δ前方変位量として67-89N、89-111N、111-133Nの間で算出した終末剛性)が月経周期で変化しませんでしたが、正常月経群と比較して月経不順群のStiffnessが有意に高値を示しました。したがって、非アスリートでは、正常月経群よりも月経不順群のほうがACL損傷のリスク因子が少ない可能性が考えられました。
本研究結果は、国際誌「Journal of Clinical Medicine」に掲載予定です。
丸山さんからのコメント:
今後は、女性アスリートの月経周期を把握して、身体構造の周期的変化に適応させたトレーニング方法を開発していきたいと考えています。そして、女性アスリートが痛みや怪我無くスポーツを楽しめる環境づくりを目指したいと思っています。
本研究のポイント:
〇アスリートにおける月経周期と膝関節弛緩性の特徴
〇非アスリートにおける月経周期と膝関節弛緩性の特徴
原著論文情報:
Maruyama S, Sekine C, Shagawa M, Yokota H, Hirabayashi R, Togashi R, Yamada Y, Hamano R, Ito A, Sato D, Edama M. Menstrual cycle Changes joint laxity in females -differences between eumenorrhea and oligomenorrhea- Journal of Clinical Medicine (in press).