日本学術振興会海外特別研究員として、The University of Adelaide(生理学教室)に留学中の佐々木亮樹さん(理学療法学科11期生、大学院博士後期課程2018年度修了、運動機能医科学研究所)と大西秀明教授らのレビュー論文が「European Journal of Neuroscience」に採択されました。
研究内容の概要:
脳卒中後には、約50-80%の高頻度で体性感覚障害が生じます。しかし、体性感覚機能を再建するためのリハビリテーション効果は、高いエビデンスが示されていないのが現状です。近年、損傷した脳部位に反復的な磁器刺激や微弱な電気刺激を行う非侵襲的脳刺激(NIBS)が注目を集めており、機能向上を目指して運動に関与する一次運動野に対しての使用が特に普及してきています。一方、体性感覚機能の向上を目的として一次体性感覚野(S1)にも使用されることがありますが、一次運動野と比較して、報告数が少なく、研究間で結果が大きく異なっております。したがって、本研究ではS1へのNIBSが体性感覚機能を効果的に変調させるのかを明らかにするため、システマティック・レビューを行いました。その結果、様々な種類のNIBS手法は、体性感覚機能に対して比較的低い効果に留まることが示されました。一方、体性感覚刺激で誘発される体性感覚誘発電位(SEP)は、体性感覚機能を表すバイオマーカーになる可能性が示唆されました。これらの結果を踏まえ、私たちは、体性感覚機能をより効果的に変調させる新たなNIBSプロトコールを開発する必要があると考えています。
本研究成果は、国際誌『European Journal of Neuroscience』に掲載予定です。
研究者からのコメント:
脳卒中後の体性感覚機能の喪失は、運動麻痺の有無にかかわらず日常生活活動能力を低下させます。そのため、体性感覚機能に対するリハビリテーションは、脳卒中後の機能回復に重要であると言えますが、十分なエビデンスが示されていないのが現状です。今回のシステマティック・レビューでは、健常成人を対象としてNIBSは体性感覚機能を向上させる有効な手法になり得るのかを調査しています。
本研究成果のポイント:
① PubMedとWeb of Scienceを使用して、S1に対してNIBSを用いた論文を検索(健常成人を対象)した。本レビューでは、様々な体性感覚パフォーマンスとS1の興奮性を評価するSEPを指標とした論文を最終的に解析対象とした。
図1. 論文検索のダイアグラム
図2. SEP計測方法とその脳活動
A) 末梢電気刺激にてSEPを誘発;B) 25名の被験者のSEPのグランドアベレージ;C) 64個のEEGチャンネルを使用したトポグラフィー。
② 研究間データを平均化するとNIBSによる体性感覚機能の変化は限定的であった。
図3. 様々なNIBSが体性感覚パフォーマンスに及ぼす影響
A) 促通のNIBS手法;B) 抑制のNIBS手法;C) 促通と抑制のNIBS手法の平均化データ
③ 研究間データを平均化するとNIBSによるS1興奮性の変化は限定的であった。
図4. 様々なNIBSが、SEPのN20とP25成分(S1の興奮性の指標)に及ぼす影響
A) N20成分を評価した促通のNIBS手法;B) 抑制のNIBS手法;C) 促通と抑制のNIBS手法
の平均化データ;D) P25成分を評価した促通のNIBS手法;E) 抑制のNIBS手法;F) 促通と抑制のNIBS手法の平均化データ
④ SEPのN20とP25成分はパフォーマンスと正の相関関係があることが示された。
図5. NIBSによる体性感覚パフォーマンスの変化とSEPの関連性
A) N20成分と体性感覚パフォーマンスの関係;B)P25成分と体性感覚パフォーマンスの関係
原著論文情報:
Ryoki Sasaki, Hiraku Watanabe, Hideaki Onishi. Therapeutic benefits of noninvasive somatosensory cortex stimulation on cortical plasticity and somatosensory function: a systematic review. European Journal of Neuroscience. In press.