花田亘平(会田病院勤務、理学療法学科18期生)、田口徹(理学療法学科教授)らの研究論文が2022年9月22日付で「Scientific Reports」誌に掲載されました。
「運動後の腰背部の痛み(胸腰部の遅発性筋痛)」 は極めて身近な問題であり、その治療や予防はスポーツやリハビリテーション領域でとりわけ重要な課題です。本研究では、健常人を対象に反復運動を負荷し、その前後における胸腰部の痛みを広範囲かつ体系的に測定することで、その分布の変化を示す「ヒートマップ」を作製し、「運動誘発性腰背部痛」のヒト実験モデルを確立しました。研究成果は胸腰部の遅発性筋痛のみならず筋・筋膜性腰痛の治療・予防法確立に有用であると期待できます。
厚生労働省が公開する国民生活基礎調査(https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21kekka.html)によると、「腰痛」は肩こりとともに自覚症状の上位を占める「国民病」です。腰痛はその痛みにより日常生活動作を著しく制限したり、健康寿命を短縮するため、スポーツや医療現場で解決すべき大きな問題の1つです。このような腰痛は、無理な動作や腰背部への過度な力学的負荷により生じ、最近では、その発生源として「筋」や「筋膜」組織が注目されています。しかしながら、これまでにヒトの筋・筋膜に起因する腰背部痛の研究モデルは確立されていませんでした。
そこで今回の研究では、健常被験者を対象に、腰背部へ反復運動を負荷し、脊柱起立筋群の痛み閾値を広範囲かつ体系的に測定し、その分布の変化をヒートマップで視覚的に示すことにより、ヒトの実験的腰痛モデルの作製を試みました。
その結果、まず、運動負荷なしの対照群では、痛み閾値の平均値は約3~6 kgであり、腰部では胸部に比べて高い値を示すことがわかりました(図上段)。また、背骨(正中線)に近い左右2 cmの部位では、背骨から遠い左右4 cmの部位に比べて痛み閾値が高く、時間経過による変化はありませんでした。一方、運動群では24時間後において、下部胸椎から腰部全体にかけて顕著な痛み閾値の低下がみられ、48時間後に回復を示しました(図下段)。
これらの結果により、運動後の腰背部痛の部位と時間経過を視覚的に示すことができました。本研究成果はトレーニングや運動習慣を必要とするアスリートや患者さんへの適切な運動処方につながる有用な知見であると考えています。
研究者からのコメント:
この研究ではご協力いただいた被験者さんの腰背部の痛みを数多くの部位で測定しました。また、被験者さんの運動負荷を介助するために、自分自身も筋肉痛になるほど大変でした。実験自体は非常に地味なものでしたが、得られた結果にとても満足するとともに、基礎研究の大変さや大切さを実感することができました。この研究が多くの患者さんやアスリートの方々のトレーニングや運動処方に役立つことを願っています。
原論文情報:
Kohei Hanada, Hiroki Ota, Kazue Mizumura, Toru Taguchi. Pressure pain threshold map of thoracolumbar paraspinal muscles after lengthening contractions in young male asymptomatic volunteers. Scientific Reports, 12: 15825, 2022.
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-022-20071-4