北谷亮輔助教(理学療法学科、神経生理Lab、運動機能医科学研究所)の研究論文が国際誌『Journal of Neurophysiology』に採択されました!
研究内容の概要:
環境の変化に応じたヒトの歩行の適応能力を活用した歩行練習が近年注目されています。効率的な歩行適応を促すために外的なフィードバック方法による効果が検討されていますが、その時の神経生理学的な影響を検討した報告は多くありません。そこで、本研究では聴覚フィードバックとして臨床現場でも簡便に使用が可能なリズム聴覚刺激による歩行適応効果とその神経生理学的背景を筋電図コヒーレンスという解析手法を用いて検討しました。
その結果、リズム聴覚刺激は歩行適応効果を促進し、適応効果の保続・想起効果を高めるだけでなく、短時間でも同程度の保続・想起効果が得られることが確認されました。さらに、大脳皮質から筋への神経性入力の程度を反映する筋電図コヒーレンスは歩行適応中にリズム聴覚刺激により減少することが明らかになりました。
研究者からのコメント:
脳卒中などの中枢神経疾患を呈する患者は歩行適応が生じにくいことから歩行を学習するための練習時間が長くなることが問題視されており、歩行適応中の神経生理学的背景を解明することは非常に重要となります。本研究結果から、歩行適応中のリズム聴覚刺激により歩行時間が短くても歩行適応効果が高まることが明らかとなり、中枢神経疾患を呈する患者に対する臨床応用が期待されます。
研究成果のポイント:
若年健常者を対象にトレッドミル歩行中に右足部を後方に牽引する歩行適応課題を5分間(Short)と10分間(Long)の2条件に対してリズム聴覚刺激(RAS)の効果を確認しました。歩行適応中(EAとLA)はRASにより歩行が対称的になるだけでなく、RAS条件では直後(ED)の歩行適応効果が大きくなりました。さらに、RAS条件では再適応開始時(ER)に適応効果の保続・想起効果が大きいとともに、5分間(Short)の短時間でも同程度の保続・想起効果が得られることが明らかになりました。
また、一般的に歩行適応開始時(EA)に増加する筋電図コヒーレンスはRAS条件において減少しており、歩行適応中にRASを併用することで大脳皮質の活動の増加を必要とすることなく、より効率的な歩行適応が可能である可能性が示唆されました。
原著論文情報:
Kitatani R, Umehara J, Hirono T, Yamada S. Rhythmic auditory stimulation during gait adaptation enhances learning after-effects and savings by reducing common neural drives to lower limb muscles. Journal of Neurophysiology. In press. doi: 10.1152/jn.00162.2022.