山田勇輝さん(理学療法学科17期生,大学院修士課程2年,スポーツ医科学Lab,運動機能医科学研究所)と平林怜講師(理学療法学科,スポーツ医科学Lab,アスリートサポート研究センター,運動機能医科学研究所)らの研究論文が国際誌『Health Science Reports』に掲載されました.山田さんは昨年からオーストラリアに留学中で,慣れない環境の中,データ解析から論執執筆まで精力的に研究活動を行っています.現在も論文を執筆しながら,オーストラリアのサッカーチームに帯同したりと頑張っています.来年度からはオーストラリアで働き,オーストラリアの理学療法士免許取得のため大学院進学に向けて奮闘中です.
今回の研究では,低強度の咬合が円滑な関節運動に有効であることを明らかにしました.また,アンバランスな咬合(噛み合わせの不良)が,非対称な運動を引き起こす可能性が確認されました.
研究内容の概要:
近年,歯の咬合がアスリートの運動パフォーマンスに影響を及ぼすことで注目されており,筋出力増加,バランス能力やジャンプ力の向上と,その効果は多岐にわたり報告されています.このパフォーマンスの変調は,咬合の強度や左右バランスによって異なることが明らかとなってきました.本研究は,等尺性筋力および関節運動を筋活動解析を用いて,咬合強度および左右バランスによる影響を検討しました.咬合強度に伴って,等尺性筋力が増加することに加え,低強度の咬合により,筋の予備収縮を含めた関節運動に要する時間が短縮することが明らかとなりました.また,咬合の左右バランスの観点から,アンバランスな咬合により左右下肢への促通が非対称になることが想定されました.
本研究の成果は国際誌『Health Science Report』に掲載されます.
研究者からのコメント:
従来のスポーツ歯科の領域は,口腔傷害予防に注力してきましたが,近年はアスリートのパフォーマンス向上に関与する1つの要因として認識され始めています.様々な競技で,アスリートがマウスガードを活用するシーンが見られますが,詳細なエビデンスは未だ乏しく,現場への応用は不十分であることが現状です.
咬合による全身への促通は,咬合の強度や咬合力の左右バランスによる影響を強く受けることが分かってきており,アスリートへの介入は,競技特性や個人の噛み合わせの特徴によって個別化される必要があると考えています.本研究を含めたこれまでの知見をまとめると,関節の固定や純粋な筋力発揮が求められる競技には高強度の咬合が,俊敏性が要求される競技には低強度の咬合が有効であることが示唆されています.また,噛み合わせの視点から,咬合力の左右バランスが崩れると,非対称な動作に関連したり,咬合によるポジティブな咬合が得られなかったりすることが確認されています.今後は現場での応用を目指し,アスリートのスポーツパフォーマンス向上の一助となるよう研究を進めていきたいと思います.
本研究成果のポイント:
咬合強度別で,等尺性ピークトルクが変化するかを比較しました(図1).Moderate条件,Max条件のいずれにおいてもピークトルクの有意な増加を認め,咬合強度に伴って,筋出力が向上することを示しました.
咬合強度別で,関節運動の円滑さの指標である関節運動発揮率(RJD)が変化するかを比較しました(図2).Moderate条件,Max条件のいずれにおいてもRJDの有意な増加を認め,咬合強度に関わらず,咬合が関節運動に有効であることが明らかとなりました.
咬合強度別で,各区間(図3-a)で関節運動に要する時間が変化するかを比較しました(図3-b).区間Ⅲにおいて,Moderate条件で有意な時間の短縮を認めたことから,筋活動の事前収縮時間を含める場合,Moderate条件のような低強度の咬合が関節運動には最も有効であることが明らかとなりました.また,上記の結果のNo-biteからの変化率を,咬合バランスの視点から咬合優位側(Hyper),非優位側(Hypo)間で比較しました(図3-c).咬合優位側の変化率が非優位側と比較して有意に大きかったことから,咬合優位側で行われた足関節運動に対して,咬合による促通がより強く働いたことを示しました.
原著論文情報:
Yamada Y, Hirabayashi R, Okada Y, Yokota H, Sekine C, Edama M. Effects of remote facilitation on ankle joint movement: focusing on occlusal strength and balance. Health Sci. Rep. 2023;6:e10
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/hsr2.1098