研究の概要:
一般集団では,BMIが高いほど死亡率の増加を認めますが,血液透析患者は,BMIが高いほど死亡率が減少することが報告されており,これは肥満パラドックスと呼ばれています.一方で,血液透析患者の腹部肥満は,死亡率の増加に関連しており,BMIの関連とは異なります.この背景には,体脂肪の分布が影響していると考えられ,心血管疾患患者では,内臓脂肪の比率が高いことが心血管イベントの増加に関連すると報告されています.また,近年の報告では,心血管疾患患者において,骨格筋量よりも筋肉内脂肪が生命予後に強く影響することも報告されています.心血管疾患を合併しやすい血液透析患者でも同様の関連を示す可能性がありますが,これまで明らかとなっていませんでした.本研究は,腹部CTを用いて筋肉内脂肪の指標である骨格筋減衰(MRA)と皮下・内臓脂肪の比率(VSR)が全死亡,心血管死亡,非心血管死亡と関連するかを調査しました.その結果,MRAは全死亡と心血管死亡,VSRは全死亡と非心血管死亡と関連することが明らかとなりました.筋肉内脂肪の増加と皮下脂肪に対する内臓脂肪比率の増加は,血液透析患者の予後不良と関連しており,体脂肪の分布に着目する必要性を示唆しました.
小島さんからのコメント:
本研究では,血液透析患者の筋肉内脂肪と内臓脂肪比率の増加が予後不良に関与することを明らかにしました.体脂肪分布を改善することは,疾病予防や健康寿命延伸のために重要であることが示唆されました.理学療法士が提供する運動療法は,体脂肪分布を改善させるための非薬物的アプローチの一つであり,今後は運動療法による効果検証も必要だと考えられます.
本研究のポイント:
MRA(筋肉内脂肪の指標)は,全死亡および心血管死亡と関連したのに対し,VSR(皮下脂肪に対する内臓脂肪の比率)は,全死亡および非心血管疾患と関連した点.それぞれ異なる機序で予後不良に影響することが示唆されました.
論文情報:
Association of intramuscular and abdominal fat measured by computed tomography with mortality in hemodialysis patients.
Sho Kojima, Naoto Usui, Masato Shigetake, Akimi Uehata, Akihito Inatsu, Shuji Ando, Ryota Matsuzawa, Yusuke Suzuki, Junichiro Nakata, Takahiko Tsuchiya, Hideki Hisadome, Takayuki Mawatari, Atsuhiro Tsubaki.
Nephrology Dialysis Transplantation (in press).
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