研究の概要:
背外側前頭前野は触覚情報の処理に関わる大脳皮質のひとつであり,手指で触れた物体の形状などを識別するときなどに重要な役割を果たしています.我々の研究グループは左背外側前頭前野に対して微弱なノイズ電流(tRNS)を与えることで右手指の触覚機能が向上することを明らかにしました.本研究成果は,国際誌『Behavioural Brain Research』に掲載されます.
研究者からのコメント:
今回の研究では,左背外側前頭前野へのtRNSが右手指の触覚機能を向上する可能性が示されました.脳卒中をはじめとした中枢神経系疾患に罹患すると5人に1人が触れたものを知覚・識別することが難しくなります.しかし,脳卒中後に低下した触覚機能を回復させる治療法は未だ確立されていません.今後,背外側前頭前野に対するtRNSが触覚機能障がいに対する治療法のひとつとなることが期待できます.
研究成果のポイント:
1. 左背外側前頭前野に対する経頭蓋電気刺激後に右手指の触覚方位弁別能力が変化するかどうかを検討しました.
2. 左大脳半球の背外側前頭前野に対して経頭蓋ノイズ電流刺激(tRNS)を与えることで右手指の触覚方位弁別能力が向上する傾向が認められました.
3. 頭皮上から微弱なパルス電流を与える経頭蓋パルス電流刺激(tPCS)を左背外側前頭前野に与えたときには右手指の触覚方位弁別能力は変化しませんでした.
原著論文情報:
Kei Saito, Kotaro Koike, Kota Takeuchi, Naofumi Otsuru, Hideaki Onishi. The effects of transcranial electrical stimulation of the left dorsolateral prefrontal cortex on tactile spatial discrimination performance. Behav Brain Res. Vol.452, 114600. 2023. doi: 10.1016/j.bbr.2023.114600.