研究内容の概要:
脳卒中後患者の約3割以上に半側空間無視という高次脳機能障害が生じるとされています。この半側空間無視の治療法として有名なプリズム適応には、様々な課題に適応効果が転移することが知られています。しかし、プリズム適応による姿勢制御への転移効果には一貫性が乏しいことも報告されているため、本研究では先行研究にてプリズム適応の転移効果を高める手法として報告されているバランスディスク上でのプリズム適応(姿勢制御がより要求される条件)による姿勢制御への転移効果を検討しました。
本研究の結果、バランスディスク上でプリズム適応を行うと閉眼閉脚静止立位時の足圧中心位置が有意に右に変位していました。バランスディスク上で姿勢制御に必要な体性感覚情報が多く入力される状態でプリズム適応を行うことが、姿勢制御への転移効果を高める可能性が示唆されました。
研究者からのコメント:
半側空間無視は歩行や姿勢制御時により顕著となるため、理学療法士が臨床現場で難渋する高次脳機能障害の一つだと思います。本研究によって、臨床でも行われるバランスディスク上での立位保持により、プリズム適応による姿勢制御への転移効果が高まることが示唆されました。
研究成果のポイント:
通常の立位でプリズム適応を行うと閉眼静止立位時の足圧中心位置に有意な変位は生じないが、バランスディスク上でプリズム適応を行うと閉眼閉脚静止立位時の足圧中心位置が有意に右に変位していた。この変位は開脚立位では生じず(A)、姿勢制御の難易度が高くなる閉脚立位でのみ生じていた(B)。
原著論文情報:
Kitatani R, Honda K, Inukai Y, Otsuru N, Onishi H. Prism adaptation during balance standing enhances the transfer after-effect on standing postural displacement. Neuroscience Letters. 2023 Sep 3;814:137470. doi: 10.1016/j.neulet.2023.137470.