佐々木亮樹さん(理学療法学科11期生,大学院修了生,神経生理Lab,神奈川県立保健福祉大学)と大西秀明教授(理学療法学科,神経生理Lab,運動機能医科学研究所)らの研究論文が国際誌に採択されました!

佐々木亮樹さん(理学療法学科11期生,大学院修了生,神経生理Lab,神奈川県立保健福祉大学)と大西秀明教授(理学療法学科,神経生理Lab,運動機能医科学研究所)らの研究論文が,国際誌『Neuroimage』に採択されました

研究内容の概要:
我々が体性感覚を知覚する際、一次体性感覚野(S1)が重要であることが知られています。しかし、体性感覚刺激中の脳活動を脳磁図や機能的核磁気共鳴法で記録すると、S1以外にも後頭頂葉や二次体性感覚野、一次運動野などの幅広い領域で活動が認められます。このことから我々は、体性感覚はS1のみで処理されるのではなく、S1を基点とした他領域とのネットワーク処理であると仮説を立てました。この仮説に基づき、我々の脳磁図による先行研究では、触覚二点識別覚には、S1と上頭頂小葉、S1と角回、S1と上側側頭回のネットワークが関与することを明らかにしました(Sasaki et al. Cerebral Cortex, 2023)。一方、触覚二点識別と同様に、触覚方位弁別は、体性感覚に関する研究で頻繁に使用されていますが、特定の大脳ネットワークが関与するのか否かは不明でした。そこで本研究の目的は、脳磁図を使用して触覚方位弁別に関与する大脳ネットワークを特定することでした。その結果、触覚方位弁別には、S1と上頭頂小葉、S1と頭頂後頭溝付近のネットワークが関与することを初めて明らかにしました。したがって本研究では、触覚を介した物体の向きの判別には、特定の大脳ネットワーク活動が重要であることを解明しました。

本研究成果は、国際誌『Neuroimage』にOpen Accessで掲載されています。

 

 

研究者らからのコメント:

脳卒中では、50-80%の高頻度で体性感覚障害が生じます。しかし、その障害に対するエビデンスに基づいたリハビリテーション手法が普及していないのが現状です。我々のシステマティックレビューでは、従来から利用されている脳の活動を変調するS1への非侵襲的脳刺激の体性感覚機能への効果は低いことを明らかにしました(Sasaki & Onishi. 2022)。そこで我々は、本研究において体性感覚処理に関わるネットワークを特定し、今後、そのネットワーク強化を狙った新たな“感覚リハビリテーション戦略”の開発につなげていく予定です。本研究は、本大学、理学療法学科、神経生理Labの大西秀明教授らと修了生(現:神奈川県立保健福祉大学大学院)の佐々木亮樹研究員と行った研究になります。

本研究成果のポイント:

1)体性感覚の検査には、触覚方位弁別を使用しました(図1)。脳磁図を用いて、安静時と正中神経刺激における脳磁場活動を計測しました(図1)。

図1. 触覚方位弁別と脳磁図による大脳活動の測定

 

2)安静時のアルファ帯域(8-12 Hz)のS1を起点としたネットワーク(15,000 vertices)と触覚方位弁別閾値の間でクラスターによる相関分析を行いました。その結果、安静時のアルファ帯域における、S1―上頭頂小葉、S1―頭頂後頭溝付近におけるネットワークの強さと触覚方位弁別閾値が関連することが明らかになりました(ネットワーク強度が低いと触覚方位弁別閾値の成績が良い)。

2. 安静時のS1を起点としたアルファ・ネットワークと触覚方位弁別閾値との関連性。

) 全大脳におけるS1シードのアルファ・ネットワークと触覚方位弁別閾値との関連性(色が表示されている箇所は有意な関連性がある脳領域)、下) 有意差を示した脳領域における触覚方位弁別覚閾値との関連性。略語:SPL, 上頭頂小葉, POS, 頭頂後頭溝; GOD, 方位弁別覚; rs-FC, 安静時の機能的結合。

 
  
原著論文情報
  

Sasaki, R., Kojima, S., Saito, K., Otsuru, N., Shirozu, H. & Onishi, H. (2024) Resting-state functional connectivity involved in tactile orientation processing. Neuroimage (IF = 6.1), 299, 120834.