教員研究紹介
八坂 敏一
脊髄後角局所回路が異常な痛みや痒みの発症に関与する
感覚情報は脳に達する前に脊髄後角で中継され、末梢から中枢神経系への入り口となる。脊髄後角では脳への中継だけでなく、介在ニューロンによる局所神経回路が感覚情報を修飾している。この局所神経回路を構成している脊髄後角のニューロンは多くの種類があり、電気生理学的、形態学的、神経化学的に多様性があり、これらのパラメーターを組み合わせて分類している。分類された集団がそれぞれどのような神経回路を形成しているかを知ることで、異常な痛みや痒みについて理解し、その治療につなげるための研究を行っている。
髙橋 英明
変形性膝関節症の進行に伴い,軟骨細胞の規則的配列が失われる
変形性関節症 (Osteoarthritis; OA) は関節軟骨の変性退行疾患で高齢者において最も多い骨関節疾患の一つであり,関節痛を誘発し活動制限を引き起こす.組織レベルでは,OA進行に伴い軟骨細胞はアポトーシスによる細胞数の減少を認め,軟骨基質の減少により関節軟骨の力学的強度が著しく損なわれる.通常,関節軟骨細胞は,表層から石灰化層にいたるまで複雑に分化統制されており,局在別にその働きが異なる.そのため,関節軟骨細胞は表層の静止軟骨細胞から石灰化層の肥大軟骨細胞に至るまで柱状(カラム状)に規則性を持った配列パターンを成し細胞間において相互作用を有することが報告さている。本研究では,OAモデルラットを用いて解析をおこなった.その結果,病態の進行に伴い細胞数が減少するだけでなく,細胞の配列パターンも失われた.これらのことから,関節軟骨の恒常性維持には,細胞数と規則的配列の維持が重要な因子であることが示唆された.
成長期における筋収縮は腱-骨移行部の構造形成に関与する
腱と骨の移行部はenthesisと呼ばれ,軟組織から硬組織へと力を伝達する部位である.enthesisは線維軟骨によって形成され,波状構造を呈することで力伝達効率を上げたり,破断しない様に力を分散するアンカーとしての役割がある.本研究では,成長期ラットに対し坐骨神経切除を行い,生理学的ストレス(筋収縮)がアキレス腱-踵骨付着部の波状構造成熟に必要であるかを検証した.その結果,筋収縮の欠如は,コラーゲンの平行性を失い,波状構造を平坦にした.これらのことから,成長期におけるenthesisの構造的な成熟には,筋収縮が必須であることを明らかにした.
玉越 敬悟
脳卒中後の運動療法が運動機能障害と中枢神経系に与える効果
脳卒中リハビリテーションのエビデンスを構築するために,脳卒中モデルラットを用いて,脳卒中後の運動療法が運動機能障害や中枢神経系にどのような影響を及ぼすか検証している.また,運動療法の種類や介入時期によって,それらに与える影響にどのような違いがあるか検証し,脳卒中リハビリテーションの最適な介入方法を明らかにしようとしている.
徳永 亮太
慢性疼痛に対する運動療法効果のメカニズム解明
慢性痛は長期の痛みにより患者さんの生活の質(QOL)を低下させ、さらに社会的にも医療費の増大を招くため、喫緊の社会的課題です。非特異的腰痛症や線維筋痛症といった慢性疼痛症では、末梢における器質的病変が確認できず、中枢神経の可塑的変化により引き起こされていることが示唆されています。また、従来の薬物治療に対し難治性であることが多く、治療に難渋することも少なくありません。慢性疼痛症に対し運動療法の有効性がガイドラインにおいても認められていますが、そのメカニズムの詳細はまだ解明されていません。近年の研究により,慢性疼痛は脳内の痛みネットワーク(ペインマトリックス)の可塑的変化により引き起こされている可能性が示されています。本ラボでは、慢性疼痛モデル動物におけるペインマトリックスを中心とした脳内の神経回路の可塑的変化を行動学的実験、細胞外電位記録、パッチクランプ法を用いて検討しています。さらに、運動療法がこの脳内神経回路の可塑的変化にどのような影響を与えるのかを検討し、慢性疼痛に対する運動療法効果のメカニズム解明を目指しています。